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コラム

「第三の目」が開く、新しい扉。

     

5月25日、政府による緊急事態宣言解除が行われました。感染防止拡大のため、7週間におよぶ自粛期間中、私たちは制限された環境の中で過ごすことを強いられました。

 

それがいま解除されたからと言って、果たして、何事もなかったかのようにコロナ禍以前の生活に戻れるでしょうか。私はこの苦難と向き合う日々は変化を伴うカオスの中で、何らかの形で続くだろうと予測しています。苦難と書きましたが、もちろん悪いことばかりではありません。

 

共創アカデミーがオンラインでの場づくりを始めた当初は本音を言えば、「やむをえず」でした。私たちはファシリテーションを通じたリアルな場づくりを強みとしてきたからです。

 

生身の人間のコミュニケーションにまさるものはない。「会ってなんぼ」を信条としてきた私にとって、オンライン上のコミュニケーションを全面的に信頼するという選択は正直、皆無に等しいものでした。ところが、どうでしょうか。試行錯誤で始めたオンラインでの場づくりに、最早、新たな突破口を見出している私がいるのです。以前の私には想像できなかった進歩です。

 

不自由や制限や不測の事態を乗り越え、生き延びようとする過程で、開発されていく力の大きさ、人間の創造力(想像力)のたくましさに我ながら驚いています。

 

企業研修やファシリテーション塾を開催する場合、これまでは会場選びから始まるのが常でした。会場の設備や空調を点検し、その場の雰囲気をよくするためにアロマを焚くなど、工夫のし甲斐がいくらでもありました。一方、オンライン会議ツールを駆使したオンラインでの場づくりでは、そうした演出は全く役に立たちません。

 

画面上にフラットに映し出されるのは参加者と、頼れるものが何もない、むき出しの自分です。そんなありのままの我が身を目の当たりにして、私の無意識は味気ないと思うのでしょうか。自分の気持ちを鼓舞するために、ついつい、ヴァーチャル背景画面に妙に凝ってしまいがち(現在進行形)です。そんな自分の姿を発見し、これまでいかに場所や物に依存していたかを思い知らされました。

 

客体化された、自分の姿。まさにこれは世阿弥の「離見の見」に通じます。世阿弥は能を演じる役者の心構えを記した『花鏡』の中で、こう説きました。

 

演者は自分の意識する自己の姿=「我見」ではなく、観客席から自分の姿を見る、「離見の見」をもって、観客と同じ目で自己の姿を眺め、目に見えない気配をも見極めて、身心全体の調和した優雅な姿を完成すべし、と。

 

この「離見の見」はファシリテーターにとっても、とてもたいせつな視点です。

 

相手がいま何を見ているか、見られている目を意識しないと、自分の伝えたいことはいい意味で伝わらないからです。私とあなたの関係性。世界を客観視し、第三の目で自分を見る。実はこの点で、オンライン会議ツールは期せずして、新たなコミュニケーションスキルを開発する手助けになっているように思えるのです。

 

均等に分割された参加者の顔を画面上で俯瞰するとき、もれなく「私」も、そこにいる。

 

否が応でも自分の姿が目につきます。自分のことはさておき、とは決してなりません。常に我が事、自分事に跳ね返ってきます。

 

同時に、目線を参加者の誰かひとりに焦点を絞るのではなく、自分の気配を溶け込ませるように全体を見て、俯瞰する視座が養われていると実感します。このまなざし力を訓練することは、「おもいやり」が磨かれるチャンスと受け止めることもできるでしょう。なぜなら、一瞬にして他人の心の動きを読む訓練にもなるからです。

 

20世紀最大の思想家にして、建築家、詩人であるバックミンスター・フラーが即興で創った詩の中に、こんな言葉があります。

 

「環境は私を除いて存在するすべて 宇宙は私を含んで存在するすべて」

 

私を起点につながる世界はこれまでは五感を通じて、感じていたリアルな世界が主でした。ところが、「直接会えない」という制限の中で、未開発のポテンシャルな能力にアクセスするチャンスを試されているような気もするのです。おそらく、今後、初対面はオンラインというふたりが、一度も会わずに家族以上に親しくなる可能性も十分にあるでしょう。

 

とはいえ、もちろん直接会う必要がなくなっているのではなく、両方を併行することで、会う喜びがますます深まる。そんなチーム作りができたらいいな、と思うのです。

 

オンラインコミュニケーションを制する者の中から、リアルコミュニケーションを牽引する無敵のリーダーが生まれるのではないか。いまの私は、そんな希望の「ほの灯り」をおぼろげながら、掴みかけています。

 

 

                          代表取締役 中島崇学

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