Human Co-becoming ~関わりの中で、共に価値を見出し続ける

こんにちは。共創アカデミーの伊藤です。共創の場のデザインに携わっています。
共創の場、可能性が開く場のデザインに携わっている私たちが、現場での体験を通じて見えてきたことと、今後取り組んでいきたい方向性について書いてみたいと思います。
ある研修での気づき
先日の研修で、印象的な場面がありました。
ある管理職の方が、グループでの対話の後にこう語ったのです。
正直、最初はこの対話の時間に意味があるのか半信半疑でした。でも、実際に自分の考えていることを言葉にして話してみると、自分でも整理がついた。そして、普段なかなか話さない他部署の人の話を聞いて驚いたんです。「え、そんなこと考えてたの?」「そんな取り組みしてたの?」って。うちの組織、実はこんなにリソースフルだったんだと気づきました。話さないから、気づいていなかっただけだったんです。
この言葉を聞いたとき、私たちが大切にしてきたことの核心が、ここにあると感じました。
私たちは長年、研修やワークショップの現場で、人が他者との関わりの中で変容していく瞬間を何度も目撃してきました。一人では見えなかった可能性が、対話を通じて開かれていく。その過程で、参加者一人ひとりが新しい言葉を獲得し、新しい視点で世界を捉え直していく——。
こうした変化は、知識を教えることでは起こりません。人と人が本音で関わり合い、互いの多様な視点に触れることで初めて生まれるものなのです。
実践を言語化してくれた概念との出会い
私たちが現場で大切にしてきたこの実感を、より深く言語化してくれる概念に出会いました。
それが、東京大学東洋文化研究所所長の中島隆博教授が提唱する「Human Co-becoming」という考え方です。
この動画もとても興味深いです。
中島教授は、従来の西洋哲学における「Human Being(人間存在)」という概念に疑問を投げかけます。「Being(存在)」という考え方は、人間を完成された存在として捉え、本質主義的な思考に陥りがちです。しかし実際の人間は、常に変化し、成長し続ける存在ではないでしょうか。
「Human Co-becoming」は、古代中国の「仁」という概念の読み直しでもあります。「仁」は「人」に「二」と書くように、一人では実現できないものです。人間は他者との関わりの中でのみ、真にその存在を生成し続けることができる——これが「Human Co-becoming」の核心的な考え方です。
この概念は、私たちが現場で目撃してきた変容のプロセスを、理論的に裏打ちしてくれるものでした。
なぜ今、この視点が重要なのか
私たちは今、大きな時代の転換点に立っています。
デジタル技術の急速な進歩、働き方の多様化、そして社会全体の価値観の変化。特にAI技術の飛躍的な発展により、従来人間が担ってきた多くの業務が自動化される中で、私たち人間にしかできない価値とは何か、人間らしく働き、生きるとはどういうことかが、改めて問われています。
AIが多くの業務を代替できるようになった今だからこそ、人間にしかできない価値——他者との関わりの中で共に価値を見出し続けること、創造性、そして新しい可能性への希望——がより重要になっています。機械的な効率性ではなく、人間的な豊かさや意味の創造こそが、これからの時代に求められる力なのではないでしょうか。
中島教授は、「人間にとって本当に大事なことは、できるという次元ではなく、望むとか、希望するとかの次元だ」と述べています。つまり、既存の能力を伸ばすだけでなく、新しい可能性を望み、それに向かって他者と共に歩んでいく力こそが重要になっていくのです。
共創アカデミーがこれから深めていきたいこと
この「Human Co-becoming」の視点と、私たちの現場での実践を重ね合わせながら、共創アカデミーとしては以下の2つの価値提供にさらに力を入れていきたいと考えています。
1. 互いの可能性を信じあう関わりが生まれる場づくり
人は一人では、真にその存在を生成し続けることはできない——この考え方の実現には、質の高い「関わり」が不可欠です。
ただし、ここで言う「関わり」とは、時間やエネルギーを大量に投入する「深い」関わりではありません。私たちが目指すのは、互いの可能性を信じあう関わりです。
私たちの研修やワークショップでは、まず固着した関係性や緊張を取り除く工夫をし、参加者が心理的安全性の高い環境で本音を語り合える場を創造します。
具体的には、3人程度のグループワークで、あるテーマで対話をしていきます。ここで大切にしているのが、「YES AND」の姿勢です。相手の意見をまず受け止め、それに自分の視点を加えていく。否定から入るのではなく、可能性を広げていく対話の型を身につけることで、参加者は自然体で関わり合えるようになっていきます。
この体験を通じて生まれる関わりは、研修の場だけに留まりません。職場に戻ってからも参加者同士をつなぎ続けます。困難な課題に直面した時、一人で抱え込むのではなく、部門を越えて相談し合う関係性が自然に生まれるのです。
中島教授が説く「弱い連帯」——タフな個人ではなく、緩やかにつながり合う関係性——が、組織全体に広がることで、多様な知恵が結集される創発的な組織力が実現されます。
私たちが提供するのは、単なるコミュニケーションスキルの習得ではありません。人と人が真に関わり合い、共に新しい視点や言葉を獲得していく「場(ba)」のデザインです。
参加者同士のインタラクティブな対話とその相乗効果を通じて、一人ひとりが自分なりの気づきや学びを「自得」していく。この過程で参加者が自然体になることで、本来持っている洞察力や創造性が自然に開かれていきます。
そこで得られた新しい言葉や視点、そして関わり方は、職場に戻ってからの行動変容の原動力となります。
2. 一人ひとりの「願い」を引き出し、共に実現する
従来の研修は「できることを増やす」能力開発が中心でした。しかし、私たちが目指すのは、それを超えた「望む力」を育むことです。
中島教授の言葉を借りれば、「人間にとって本当に大事なことは、できるという次元ではなく、望むとか、希望するとかの次元」にあります。
私たちは、一人ひとりの中に、「こうありたい」「これをやりたい」という願いがあると信じています。その願いは、仏教用語で言えば「大欲得清浄」——私利私欲を超えた、より大きな善や理想を求める清らかな欲——に通じるものかもしれません。「いや、自分にはそんなものはない」という人にも、かならず、なんらかの願いがあると信じて関わります。
研修やワークショップでは、例えば、「自分のチームをどんな場にしたいか」「どんな対話を生み出したいか」といった問いを投げかけ、参加者同士で語り合います。そこで出てきた一人ひとりの願いを、YES ANDの対話を通じて互いに受け止め、広げていく。この過程で、個人の願いが共有の願いへと育っていくのです。
これは、既存の枠組みの中で効率を上げることではありません。関わり合いの中で、一人ひとりの中に眠る本来の力を呼び覚まし、新しい可能性を発見し、共に創造していくプロセスです。
それこそが「関わりの中で、共に価値を見出し続ける」ということであり、「Human Co-becoming」の実践だと、私たちは考えています。
組織を「共創の場」へ
私たちが最終的に目指すのは、組織を単なる労働の場ではなく、一人ひとりが成長し、共に新しい価値を創造する「共創の場」として再定義することです。
そこでは、階層や役職を超えた対話が生まれ、多様な視点が交わり、創発的なアイデアが生まれます。そして、一人ひとりが「この組織で働くことで、自分も成長し、社会にも貢献できる」という実感を持てる環境を実現したいのです。
社会全体の豊かさへの貢献
Human Co-becomingの実現は、単なる企業の業績向上にとどまりません。それは、一人ひとりの人生の質の向上と、社会全体の豊かさの実現に貢献する価値の創造ともいえます。
私は、「ファシリテーションは共によりよく生きる術である」という信念をもって、場づくりをしています。人々が他者との関わりの中で「共に価値を見出し続ける」体験を提供し、一人ひとりの願いが実現される場を創ることで、より豊かで意味のある働き方と生き方の実現に貢献していきたいと考えています。
共創アカデミー 取締役
伊藤加奈子
※参考