部下がピンチの時こそ、いったん受けとめる
大惨事の発生
官公庁のIT事業を担当していたころの話です。
云十億もの赤字PJを数件抱えていました。
そのなかのAプロジェクトは日々開発室で社員が疲弊していました。
増え続ける赤字額、予算会議での役員からのプレッシャーで押しつぶされそうになっていた時のことです。
そんなある日の早朝、Aプロジェクトのプロマネ(以下PM)から電話がありました.
「作業ミスで本番システムが停止しました。」
「えっ 嘘だろ。嘘って言ってくれよ・・・」 心の叫びでした。
私は、顧客への謝罪、役員報告、顧客からの叱責でサンドバック状態になっていました。
同じことを二度繰り返さないように、再発防止のために、作業ミスをした者への是正措置(担当替えなど)、そして今まで以上の統制を効かせて、指呼点検、二重チェックの貫徹を再度展開するのか、すごく悩んでいました。
ねぎらいの言葉
ちょうどその時、某メディアの問題PJで効果を上げている活動を、別の役員が教えてくれました。
藁をもすがる気持ちで、早速そのB役員のところとアポとり、B役員室に入室し、「惨憺たる状況の説明」を始めました。
説明が終わると 目をつぶりながら聞いていたB役員が言ったのです。
「君たち・・・ほんとうに大変だったねえ。失敗したくて失敗する人はいないからね。」
続けてこう言いました
「現場で働いている人たちはもっと大変な状況なんだろうね」
なんとそれはねぎらいの言葉だったのです。
まずはきつい叱責を受けると思いきや、「いったん受けとめ」られて、しかも「ねぎらわれた」のです。
B役員の言葉は私とPMの心に染み入り、2人の目も真っ赤になっていました。*1
「自分がサンドバック状態になり被害者」になって「嘆いていた」その時に、「現場の社員は徹夜しながら疲弊していた」ことにやっと気がついたのです。
自分の疲弊ははっきり言ってどうでもいいのだ、現場の社員を疲弊から脱することがまずは最初にやらねばならないことなのだ、と気づいた一瞬でした。
ミスを起こそうとして起こすひとはいない
「ねぎらいだなんて・・そんな甘い対応していて、また再発しちゃうじゃないか!」
「ミスを起こした人への叱責や制裁、管理統制を厳格にするべき」
という思う方も多いと思います。
みなさんの職場ではいかがでしょうか?
作業ミスを起こした作業内容は本来PMへ作業許可と事前レビューを実施するのがルールです。
そのルールが遵守されなかったのです。
しゃくし定規に言えば「作業の事前レビューを怠った担当者Cさんのミス」ということになります。
しかし、社員の99.99%は「ミスを起こそうとしてミスしている人はいない」と断言できます。*2
孤独な早朝の保守作業
Aプロジェクトのサーバーは郊外のデータセンター(DC)にありました。
CさんはDC近くのホテルに宿泊し夜明け前の4時ごろから毎日DCへ入室し、保守運用を担当していました。
「目の回るほど忙しそうなPMへの事前連絡の遠慮」もあり、事前レビューを怠ったのです。
日の当たらない保守運用作業は認知されることの少ない仕事です。
できてあたりまえ、間違いがあってはならない仕事です。
そのような日の当たらない仕事にこそ上司は声がけして、「君のことをぼくはみているよ、ちゃんとやっているかな」という声がけが必要です。
再発防止策検討の際はCさんを攻めるのではなく、「Cさんをそうさせた背景や原因」を知ること、そしてその原因を除去することに全力をかけるべきなのです。
顧客や当社役員からの叱責は自分の腹に収めなければリーダーは失格です。
なぜならそのまま丸投げして部下を叱責してもチームは良くなりません。
本来であれば役員もリーダーを叱責すべきではありません。
全く何の意味もないからです。それは負の連鎖しか呼びません。
一人ひとりのふるまいが文化をつくる
Cさんはその後PJに残り、失敗を糧に学んだことを再発防止策としてまとめ、その知見を自分の領域のみにとどまらず、事業部全体に展開してくれました。
リーダーの振る舞いは部下に引き継がれます。
部下が将来、リーダーとなった時にそのふるまいを引き継ぎ、自分の部下に同じようにふるまいます。
このようにして文化は職場全体の文化となっていき、やがて会社全体の文化となっていくでしょう。
<参考文献>
*1いったん受けとめる習慣 フォレスト出版 https://amzn.asia/d/cpuQ8KD
*2 コーチングバイブル 東洋経済 https://amzn.asia/d/4xMnKGM
NCRW(”People are naturally creative, resourceful, and whole.”)
「人はもともと創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である」
文責:共創アカデミー 小林