本文までスキップ

コラム

単刀直入でもやる気が出るフィードバック術 ~人間関係を深めながら成果を高める伝え方~

     

 

「改善してほしいことを伝えたいけれど、相手の気持ちを傷つけたくない」「言い方に気を遣いすぎて、結局何も伝わらなかった」「フィードバックをしても相手が反発してしまう」。こうした悩みは、管理職や育成担当者なら誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

本稿では、共創アカデミーが開催した「単刀直入でもやる気が出るフィードバック術」セミナーの内容をもとに、相手のモチベーションを高めながら、しっかりと改善点を伝えるフィードバックの方法について解説します。

 

 

フィードバックが難しくなっている時代背景

 

まず、なぜ今の時代にフィードバックが難しくなっているのでしょうか。背景には大きく3つの要因があります。

 

  1. 旧来型の人材育成システムの崩壊:かつては飲み会やゴルフなど、仕事外での交流を通じて自然発生的にフィードバックが行われていました。しかし今は、そうした機会が減少し、意識的に場を作る必要があります。
  2. 個人の多様性の高まり:年齢、国籍、雇用形態など、メンバーの属性が多様化しています。ジョブ型雇用の普及もあり、様々なバックグラウンドを持つ人材が組織に加わるようになりました。
  3. ハラスメント意識の高まり:職場での言動に対する意識が高まり、不適切な表現や対応がすぐに問題視されるようになりました。このため、フィードバックをする側も「言い方」に慎重にならざるを得なくなっています。

 

 

フィードバックとは何か

 

フィードバックは、目標に向かって努力する過程で、現状を確認し、より良い方向へ導くためのコミュニケーションです。大きく分けると、「うまくいっていること」と「改善できること」の2つの方向性があります。

多くの人が難しいと感じるのは、「改善できること」を伝える場面です。アンケート調査によれば、フィードバックを与える側は「改善点を指摘すること」に苦手意識を持ちがちですが、受け取る側は「改善のためのフィードバック」を実は望んでいるというデータもあります。受け手の7割が「上司からの軌道修正的なフィードバックが自分の成果向上に役立つ」と回答しています。

 

 

単刀直入でもやる気が出るフィードバックの土台

効果的なフィードバックを行うための大前提として、「事実」と「主観」を区別する視点が重要です。

例えば、「朝、会社のロビーで目が合ったが、部下が挨拶を返さなかった」という事実に対して、「自分を無視した」と解釈するのは上司の主観です。

実際には部下は「急ぎの用事で頭がいっぱいだった」という別の主観を持っているかもしれません。

 

単刀直入にフィードバックをする前に、以下の3つのポイントを意識しましょう。

 

  1. 事実を冷静に具体的に捉える:目に見える言動や結果を客観的に把握する
  2. 部下の主観を汲み取る:相手がどう考え、感じているのかを理解する
  3. 自分の主観は謙虚に伝える:自分の見方を押し付けずに伝える

 

 

イエスアンドフィードバック

従来のフィードバックでは、良い点を認めた後に「でも」「しかし」といった接続詞を使って改善点を伝えることが多いですが、この「イエスバット」方式では、「バット」以降の否定的な内容だけが相手の心に残りがちです。

これに対して、「イエスアンド」方式は、相手の良い点をしっかり認めた上で、「さらに」「それならば」といった前向きな接続詞を使って改善点を伝えます。

 

 

イエスアンドフィードバックの基本形

 

  1. イエス:努力、強み、持ち味、実績、良かったところを全力で認める
  2. アンド:「さらに」「それならば」「だとしたら」という接続詞を使う
  3. 改善してほしいこと:すっきり、爽やか、スパイシーに伝える

 

 

【例】

「山田さん、あなたは日頃勉強しているから技術力もあるし、お客様との信頼関係も着実に積み上げていますね。

それならば、会議開始5分前には着席しているようにすれば、山田さんへの信頼はますます強固になるし、技術力もより活かせるようになりますね。」

 

 

イエスアンドフィードバックの応用形

 

基本形に加えて、以下の要素を追加するとさらに効果的です。

 

  1. ビジョン:相手が努力を続けた先にある未来像を描く
  2. トラスト:相手への信頼を伝える

 

【例】

「山田さん、あなたは日頃から勉強しているから技術力もあるし、お客様との信頼関係も着実に積み上げていますね。

そして私は、そんな山田さんが今の努力を続ければ、近い将来、マーケット全体の責任者になって大きな成果が出せると思っているんです。

それならば、タイムマネジメントも大切です。

会議など5分前には着席しているようにすれば、信頼はますます強固になるし、技術力も注目されて責任者へという声が高まると思います。

改めて私は山田さんの積み重ねている努力にはリスペクトしています。この仕事を任せてよかったと思っています。

頼りにしていますよ。」

 

 

日常からの地盤作り:プチプチ承認

効果的なフィードバックを行うためには、日常からの関係性構築が欠かせません。「プチプチ承認三か条」として、以下の3つの視点で日々の小さな承認を積み重ねましょう。

 

  1. 成長:良くなったところに「良くなったね」と共感する
  2. 共感:大変だ、苦労したところに「大変だったね」と共感する
  3. 感謝:助かったところに「助かったよ」と感謝を伝える

 

この3つの中で最も難しいのは「感謝」です。

なぜなら感謝の反対は「当たり前」だからです。部下の行動や成果を「当たり前」と思わず、感謝の気持ちを伝えられるかどうかが重要なポイントです。

 

 

フィードバック効果を高めるための心得

 

最後に、フィードバックの効果をさらに高めるための7つの心得をご紹介します。

 

  1. フィードバックを受け取れる人になる:まず自分から部下のフィードバックを受け入れる姿勢を示す
  2. 言い訳せず感謝して受け止める:自分も不完全であり、成長しようとしていることを示す
  3. 事前に確認する:個人攻撃や無意識の偏見がないか、「できていない」と「していない」を混同していないか
  4. 目標達成までフォローアップする:フィードバックは1回限りのアクションではなく継続的なプロセス
  5. タイムリーに行う:適切なタイミングでフィードバックを行う
  6. リスペクトを忘れない:相手の価値観や主観を尊重する
  7. フィードバックが伝わったか確認する:相手がどう受け取ったかを確認し、必要なサポートを提供する

 

 

まとめ:フィードバック文化の醸成へ

 

フィードバックは、単なる業績評価のツールではなく、組織全体の成長を促進する強力な手段です。「イエスアンド」の精神で相手の強みを認め、成長の可能性を信じることで、単刀直入でありながらもやる気を引き出すフィードバックが可能になります。

 

最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「すっきり爽やかスパイシー」を心がけ、日常の小さな承認から始めてみましょう。そして、自らフィードバックを受け取る側になることで、組織全体のフィードバック文化が醸成されていきます。

 

理想的なのは、メンバーから「フィードバックをしてください」と頼られるリーダーになることです。

 

そうなれば、フィードバックは苦手な業務ではなく、お互いの成長を促進する喜びの瞬間に変わるでしょう。

 

共創アカデミープロフェッショナルパートナー講師

宮田 茂彦

 

 

CONTACT

お気軽にご相談ください

お問い合わせ