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コラム

部下の眠れる能力を引き出す、利他的フィードバック

稲盛和夫さんが著書『活きる力』の中で、人の心の中には「利他の心と利己の心が同居する」と説いていましたが、どうやら最近、私の身辺では利他の心が溢れていると感じられる機会が増えています。

 

ファシリテーション塾、セミナー、企業研修と場所が変われど、偶然の一致とは思えないほど、その場に集う人々の気持ちのありようが利己よりも利他に向かっている。そんな傾向性を実感しています。それは思いやりとか、愛という言葉に置き換えることもできますが、どうも「利他」のほうがしっくりきます。

 

 

自分のためよりも人のために。利己よりも利他のほうが尊いと頭では理解できても、それを殺伐とした現代社会の環境の中で行動に落とし込むことはなかなか難しいことです。

 

一昔前の「説得」「命令」に変わり、今では「自律」や「エンゲージメント」が重要視され、企業研修やリーダー向けのトレーニングセミナーでは傾聴力や質問力や共感力を強化する流れがあります。とはいえ、参加者はこんな疑問を抱えていることが少なくありません。

 

 

「部下の話を聞くだけで本当に組織のパフォーマンスがあがるのですか?」

「共感さえすれば、部下を成長させることができるのですか?」

私はこう答えます。「それだけでは難しいですね」

 

 

確かに、チームビルディングにおいて傾聴力や質問力や共感力は互いの信頼関係を築くために欠かせない能力です。この土台がなくては、強い組織はできません。ですが、部下の成長の伸びしろを引き出し、よりよいパフォーマンスを促進するためにはもっと重要視しなければならないことがあります。それはフィードバックです。意外に思われるかもしれませんが、フィードバックこそ、「利他の心」がなければできないからです。

 

 

人間は誰しも不完全で弱い生きものです。それゆえ、自分の欠点を見ないことがあります。

伸びしろとはその人が抱えている課題であり、問題点です。指摘される側にとって、時にそれは傷みを伴います。当然、指摘するほうもつらく、覚悟のいることです。

 

 

誤解を恐れずにフィードバックの本質を一言で表すなら、「愛情をもって、思いっきり部下の頬をひっぱたく場面も大事」ということかもしれません。もちろん、あくまでも比喩ですよ。今日、それを真に受けて実行すればパワハラで訴えられかねません。ですが、このハラスメント、コンプライアンス偏重によって問題を起こさないように人間関係が希薄になり、腫れ物に触れるようなコミュニケーションが蔓延している気がします。

 

言うまでもなく、本当の信頼関係はそんな手探りのコミュニケーションからは生まれません。全身全霊で向き合い、お互いの尊厳を尊重し合いながら同じゴールイメージに向かって全力で助け合ったり、切磋琢磨したり。そうすることでしか本物の関係性は構築できないからです。

 

 

部下との信頼関係において、相手の痛いところを突くと自覚したうえで、愛をもって確信犯で叩くことができるかどうか。これはリーダーの試金石となるでしょう。

 

〇 部下の持ち味や才能を十分に引き出す力

〇 部下の眠れる可能性を信じて開花させる力

 

私は前者を地のリーダーシップ、後者を天のリーダーシップと呼んでいます。持ち味や才能を受容し、優しく包み込むように引き出す地のリーダーに対し、天のリーダーは本人もまだ気づいていない潜在能力を信じて、現実とのギャップを露わにし、指摘する厳しさを持ち合せねばなりません。自ら「嫌われる勇気」を持つ覚悟のいることです。場合によっては、一時的に関係性が悪くなることもあるでしょう。けれど、部下も気づいていない潜在能力をありありとVISIONとして思い描き、それを伝えることができたなら、部下は眠れる力を開花させることができるでしょう。

 

 

フィードバックの場面で部下に心地の良い、優しい言葉がけや誉め言葉ばかりを伝えていませんか。それは見方をかえれば、摩擦を恐れ、嫌われることを回避したいという「利己」の姿であり、保身です。たとえ、嫌われてもそれが本当に部下の成長を願う「利他」の心から発せられた言葉なら、必ず、伝わるはずです。フィードバックはごまかしの利かない真剣勝負ですが、決して「うまくやろう」などと、気負わなくていいのです。

 

 

利他の心から発せられた言葉や行動には必ず応援者ができます。周りが助けてくれたり、支援してくれる人が現れたり。トントン拍子に事が運ぶ。そんなケースが多いものです。

 

もしも「あなたのためを思って」とどんなに言葉を尽くしても、周りに応援してくれる人がいないなら、立ち止まって自問する必要があります。それは利己の心から発せられていませんか?おためごかしになっていませんか? 自分でも自分の心に気づいていない時は往々にあるものです。「世のため、人のため」。利他の心から発せられた思いならば、きっとスムーズに実現することでしょう。

 

 

代表取締役 中島崇学

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