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コラム

「いき」の構造に倣う、リーダーシップ

     

リーダーシップの要件として「オーセンシティ」つまり「自分らしさ」を表現することの重要性が数年前に話題となりました。ところが、誰もがこれに倣えば「同質化を招く」というパラドックスに陥ってしまいます。最近では「パラドックスの受容」こそ、リーダーに必要不可欠なスキルだという議論も聞かれるようになりましたが、リーダーに限らず、生きていると様々な問題に直面せざるをえません。

 

私の場合、ビジネスで直面する問題や悩みの解決法を探る時、九鬼周三の「『いき』の構造」に登場する「意気地」「媚態」「諦念」という3つのフレームを念頭に置いて思索を巡らせることが多々あります。これが思いがけないブレイクスルーをもたらしてくれるからです。

 

九鬼周造は「いき」の内包的構造として「意気地」「媚態」「諦念」という三契機を示し、さらに言葉を換えて「垢抜けして(諦)、張りのある(意気地)、色っぽさ(媚態)」と定義することができないだろうか、という問いかけをしています。洒脱ですよね。

 

そもそも「いき」とは「息」を表す言葉です。焦ったり、ネガティブな考えに支配されたりすると私たちの呼吸はついつい浅くなり、息苦しさを覚えるようになります。呼吸が免疫力と深い関係があることは、皆さんもご存じの通りです。

 

深呼吸することで人の生命力はよりよく循環する。仕事をするうえでも、生命力が輝き、イキイキとした状態で自分自身の天分を発揮できることがもっとも望ましい状態であるとするなら、「いき」は「あり方」の手本になり得るのではないでしょうか。

 

たとえば、競合他社や過去の事例に囚われ、「あらまほしき」他者を装いはじめると、自分軸が揺らぎ始めます。自分よがりが加速し、取り繕いを重ねた結果、出口のない袋小路に追い込まれた経験は誰にでもあるはずです。こうした閉塞した状態に陥った時、解決策を急ぐ前に、立ち返るべき場所はどこか。

 

それはやはり、自分と自身の「意気地」をしっかりと「むすぶ」ことにほかなりません。リーダーであれば「我々は一体何を目指すのか」「掲げるヴィジョンの目的は何か」としっかり向き合い、優先順位をつける。ただ、ここで気をつけたいことは心の強みと張りを意味する「意気地」ばかりが立てば自分よがりの「野暮」に成り下がってしまうということ。

 

ゴムを引っ張りすぎるとたちまち伸び切って使い物にならないように、何事にも「たわみ」=「緩み」は必要です。つまり、リラックス。

 

野暮になくて、垢ぬけた「粋人」にあるもの。それが媚態と諦諦念であると九鬼は説くわけですが、いずれもビジネスの場に置き換え、私なりにそれぞれ言い換えを試みたいと思います。

 

「媚態」とは「媚び、へつらい」を意味しますが、決して他人におもねるという意味ではありません。私がイメージする媚態とは「笑顔」です。深刻ぶらず、微笑みをたたえられる状態は他者に対してリラックスし、自分を「開く」行為だから。

 

エゴでがちがちに凝り固まった緊張をほどき、心を開いて相手に委ねる。その先に相手を癒す笑顔があります。

 

こうした媚態(笑顔)は、あり方のように捉えがちですが、それなりの覚悟を要する、いわゆる術=スキルの領域に近いようにも思えます。

 

ユーモアもそうかもしれません。なぜなら、どんなにつらい状況にあっても「笑っちゃおう」と構えられるユーモア精神を持てるかどうかは、「意志して相手に委ねる」という、あり方と関係性を前提とした技術を必要とするからです。思いやりがないところに、笑顔もユーモアは生まれません。笑いは常に、愛と共感があってはじめて、もたらされるスキルだからです。

 

長年、現場にいて実感しますが、こんなふうに腹を括れるスキルを有したリーダーは無敵です。何事も笑い飛ばす勇気と覚悟さえあれば、「どうにもならないことなど、なにもない」からです。さらに言えば、このような、前向きさを持てるリーダーは間違いなく、モテます。モテる人に共通している要素とは人を魅了する力、つまり色気です。色気とは人たらし術。最強の処世術にほかなりません。

 

最後に諦念について。最近は「諦めなければ夢は叶う」という自己啓発的な文脈で語られることが多く、諦めることはネガティブな印象として受け止められているようですが、本来、諦観とは力を抜いた状態で「明らかに観る」ことを意味します。諦めるとは限界を知って「手打ち」をすること。人は限界知ってこそ、分を弁えることができるようになるものですから。 足ることを知ってはじめて、他者との「関係性」に思いを馳せることができる。

 

自分よがりのエゴから解放され、余裕のある状態で俯瞰したまなざしで相手の領分を慮る。こうした関係性を築くことができれば、大概のビジネスはうまくいきます。

 

逆に、不要な全能感に侵された人ほど、不満やトラブルの種を抱えていることが多いものです。おそらく、何事もエゴからスタートしているからでしょう。ひとりよがりの達成感や野心に支配された、「息苦しい」リーダーシップとはもういい加減、お別れしませんか?

 

これからのリーダーの要件は自分では背負いきれない目的をもち、次世代とつながり、世界へ広がっていく。そんな利他貢献の精神をもった「いき」な人ではないか。そんな気がします。気風がよくて、ユーモアがあって、風通しがいい。

 

ビジネスの現場に、そんな「いき」なリーダーが増えることを私は心から待ち望んでいます。

 

                     代表取締役 中島崇学

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