コ・ファシリテーション:2名以上で行うファシリテーションの効果と実践
こんにちは。共創アカデミーの伊藤です。
私たちが場づくりをする際、複数人でファシリテーションを行う「コ・ファシリテーション」を取り入れることが多々あります。
ファシリテーションは通常一人で行うことが多いですが、二人以上で役割を分担して行う「コ・ファシリテーション」には独自の価値と可能性があります。
ここでは、二人以上のファシリテーターが協力して場をデザインし運営する際のポイントと効果について解説します。
コ・ファシリテーションとは
コ・ファシリテーションとは、二人以上のファシリテーターが協力して一つの場をデザインし、運営する手法です。単なる役割分担ではなく、ファシリテーター同士が連携し、それぞれの視点を活かしながら参加者の対話や学びを促進します。
コ・ファシリテーションの主なメリット
- 一人では見えない場の変化や参加者の反応に気づける
- 互いの強みを活かし、弱みを補完できる
- バリエーションを活かした伝え方ができる
- 大規模なワークショップやセッションでの負担を分散できる
コ・ファシリテーションの成功のカギ
1. チームの関係性が土台となる
コ・ファシリテーションの質は、ファシリテーター同士の関係性に大きく左右されます。参加者はファシリテーター間のやり取りから多くを学び、その関係性は場の雰囲気に直接影響します。
- ゴールイメージの共有
共通のゴールがあることで、方向性のぶれない一貫したファシリテーションが可能になります。単に「こんなワークショップをやる」という表面的な共有ではなく、「参加者にどのような変化や気づきを促したいか」「どのような場の状態を目指すか」といった本質的なゴールイメージを共有することが重要です。
- 相互リスペクト
それぞれのファシリテーターの経験、専門性、価値観やアプローチの違いを尊重し合うことが不可欠です。意見の相違があっても、それを批判ではなく、新たな可能性として捉える姿勢が大切です。相互リスペクトがあれば、即興的な展開にも柔軟に対応できます。
- 分担と連携
役割分担を明確にしつつも、必要に応じて柔軟に支援し合える関係が理想的です。「これはあなたの担当だから口出ししない」という硬直した分担ではなく、状況に応じて互いをサポートし合える連携体制を築くことが大切です。
2. 事前準備の徹底
- ゴールイメージの再確認
ワークショップやミーティングの直前に、改めてゴールイメージを確認し合います。時間が経つにつれて微妙にズレが生じていることもあるため、「私たちは今日、何を実現したいのか」を言語化して共有することが重要です。
- 「どのような場にしたいか」のイメージ共有
参加者にとってどのような場であってほしいかを具体的にイメージします。「安心して意見が言える場」「創造性が発揮される場」「多様な視点が交わる場」など、場の質について共通認識を持つことで、ファシリテーションの方向性が定まります。
- 「どんな自分でいるか」の意志表明
ファシリテーターとして、自分がどのような存在でありたいかを互いに表明します。「参加者の声を引き出す聞き手として」「新しい視点を提供する刺激役として」など、自分の立ち位置や姿勢を明確にすることで、互いの動きを予測しやすくなります。
3. 役割分担の明確化
- 各パートのオーナーを決める
プログラムの各パートについて、誰が主導するか(オーナーシップを持つか)を明確にしておきます。これにより、場の主導権をスムーズに交代でき、参加者も誰の指示に従えばよいかが明確になります。
- 主導と支援の役割交代
一方が主導する際、もう一方は支援に回るという役割交代を意識します。支援役は、場の様子を観察し、必要に応じて補足説明を加えたり、参加者のサポートに入ったりします。この「主導・支援」の交代がリズミカルに行われると、セッション全体に良いリズムが生まれます。
- 得意分野による分担
テーマやプロセスの得意分野に応じて役割を分担することも効果的です。例えば、概念的な説明が得意な人と、ワークの実践指導が得意な人がペアを組むことで、理論と実践をバランスよく提供できます。
4. 掛け合いのテクニック
- Yes andの原則でつなげる
共創のコミュニケーションの基本である「Yes and」を活用します。相手の発言を否定せず受けとめ(Yes)、そこに新たな視点や情報を加える(and)ことで、アイデアを発展させていきます。例えば「田中さんが言ったように〇〇ですね。さらに△△という側面もあります」というように、互いの発言をつなげていきます。
- パートナーを信じてオファーする
相手がどう反応するか不安でも、思い切ってボールを投げることが大切です。「この点について、佐藤さんの専門的な視点からもう少し掘り下げてもらえますか?」など、相手の強みを活かせるようなオファーをします。信頼関係があれば、予期せぬオファーも新たな展開のきっかけになります。
- 言葉のバトンパス
「ここまでのポイントをまとめました。ここからは山田さんに次のステップを説明してもらいましょう」など、明確な言葉でバトンを渡します。これにより、参加者は流れをスムーズに理解できます。
5. 場の状態の共有と調整
- 定期的な状況共有
進行の合間に、互いの視点から見えている場の状態を共有します。「参加者の反応はどう見えていますか?」「予定通りのペースで進んでいますか?」など、簡潔に情報交換することで、軌道修正の必要性を早期に把握できます。
- 柔軟な計画変更
場の状態に応じて、事前の計画を変更する勇気も必要です。「予定していたワークは省略して、今出ている議論をもう少し深めましょうか?」など、状況に応じた判断を共有します。
- 非言語的なサインの活用
あらかじめ、「時間が足りない」「もう少し掘り下げたい」などを表す非言語的なサインを決めておくと、セッション中でもスムーズに意思疎通ができます。
コ・ファシリテーションの実践例
ケース1:大規模ワークショップでの役割分担
100名規模のワークショップでは、主進行役、グループワークのサポート役、技術的なサポート役など、明確な役割分担が効果的です。主進行役が全体の流れを作る間、他のファシリテーターはグループ間を巡回し、必要に応じてサポートを提供します。
ケース2:異なる専門性の組み合わせ
例えば、組織開発の専門家と心理学の専門家がコ・ファシリテーションを行うことで、組織の課題に対して多面的なアプローチが可能になります。一方が論理的な視点からの問いかけを行い、もう一方が感情面や関係性に焦点を当てるなど、互いの専門性を活かした掛け合いができます。
ケース3:経験者と新人の組み合わせ
経験豊富なファシリテーターと新人がコ・ファシリテーションを行うことは、優れた学びの機会となります。経験者が主要な部分を担当しつつ、新人に適切な役割を与え、セッション後のフィードバックを通じて成長を促します。新人の新鮮な視点が、時に思わぬ気づきをもたらすこともあります。
コ・ファシリテーションで注意すること
- 事前準備の時間確保
複数人で綿密な準備を行うには、一人で行う場合より準備時間が必要です。例えばオンラインツールを活用した効率的な打ち合わせや、役割分担による準備作業の分散など、色々と工夫はできそうです。事前準備で一番大事なのは、上記に示したように、関係性の土台を築き、ゴールイメージを明確にすることだと考えています。事前に「どのようなファシリテーションを大切にしているか」などについても率直に話し合い、互いのスタイルを尊重し信じると決めることが大切です。
- 想定外の状況への対応
予期せぬ展開が起きた際、即興で対応する必要があります。このような状況では、一瞬目を合わせるなどの非言語コミュニケーションや、「ここで少し方向性を確認したいのですが」と一時中断して簡単に相談する勇気も必要です。
まとめ ~コ・ファシリテーションがもたらす創発~
コ・ファシリテーションの真価は、単なる効率化や負担軽減ではなく、多様な視点と専門性の掛け合わせによる創発性にあります。ファシリテーター同士の健全な関係性が、参加者にとっての理想的な対話モデルとなり、場の質を高めることにつながります。
複数人で協力してファシリテーションを行うことは、時に調整の難しさをもたらしますが、それ以上に豊かな可能性を秘めています。信頼関係を基盤に、互いの強みを活かしながら、参加者にとって価値ある体験を共創していくプロセスこそが、コ・ファシリテーションの醍醐味と言えるでしょう。