人的資本経営ってなに?
共創アカデミーの小林です。
研修VS仕事?
以前、IT企業の自治体システムを担当している時、取り返しのつかない失言をしたことがあります。A県庁のITシステム整備事業が、サービスイン間近の繁忙時期でした。A県庁担当の某支店Y主任はサービスイン前後に研修の予定が入っていました。
そのY主任に対して、「この重要な時期に研修に行くのか」と言ってしまったのです。社員が折角の重要な機会である研修時間を確保しているのに、「研修より仕事」が重要だという価値観を押し付けてしまいました。
「想定外の重要障害」がその時点で発生していたら、百歩譲ってその発言に少し目をつぶってもよいかもしれません。
しかしシステム稼働はオンスケジュール・・・想定内に収まっていましたので、明らかにまずい発言でした。
社員の能力開発費用が先進諸国に比較し日本は最低
H30年度厚労省の「労働経済の分析」(図1)では「我が国のGDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合は、米国・フランス・ドイツ・イタリア・英国と比較して突出して低い水準にあり、経年的にも低下していることから、労働者の人的資本が十分に蓄積されず、ひいては労働生産性の向上を阻害する要因となる懸念がある*1」と指摘されています。
*1 厚労省 H30年度労働経済の分析
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-2-1_02.pdf
また人的資本経営の実現に向けた検討会(主催経産省)の座長 伊藤邦雄氏はこう述べています。「『企業は人なり・人材は石垣』、わが国には人を大事にする言葉やことわざが色々ある。とはいえ、人材の一人ひとりと向き合い、その価値を見出し伸ばす経営を実践してきたかが、いま真に問われている。」*2
*2 伊藤レポート 2.0 経産省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
人的資本の重要性とその背景
最近にわかに注目されているのがこの人的資本に着目した経営です。その理由は人的資本に関連する非財務情報の開示が2023年より義務化されるからです。従来から企業は「ヒト・モノ・カネ・情報」を源泉として付加価値を創出してきました。有価証券報告書に開示義務があるのはカネ(財務資本)の領域でした。しかし1992年の地球サミットを契機に企業の社会的責任(CSR)*3が問われ、その後の「サステナビリティ」に続き、2010年代になるとIIRC(国際統合報告書評議会)により統合報告書フレームワーク(IR)*4が公表されました。
*3 CSR(ISO26000)
https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/dev/discovering%20ISO%2026000.pdf
*4 IIRC統合報告書フレームワーク
同時にSDG’s、ESG投資などが企業活動に必須となり、開示内容が拡大してきました。そして今まさに人的資本の開示が世界的な潮流となっているのです。
既にSEC(米国)では、人的資本に関する開示を上場企業に義務付けし、2020年11月より適用開始、またEC(欧州)においても、人的資本関係における開示報告基準が策定され、仮案が今年4月に公表されています。
日本でも、今年8/30に内閣官房(非財務情報可視化研究会)より「人的資本可視化指針(案)*5」が公表されました。
既に2019年ISO30414において人的資本の開示ガイドライン*6が公表されており、「人的資本可視化指針」はそれらの要素を取り込み国内の要因を踏まえ図2の19項目が検討されています。
企業はヒト・モノ・カネ・情報によって、企業固有のビジネスモデルにより付加価値サービスを創出します。*7
*7 統合報告と企業価値創造(3)~Capital to Capitalフレームワーク|日本総研
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=23583
従来から開示されていたカネ(財務資本)領域は図3の左側になりますが、来年には右側のヒト(人的資本)がその企業においてどれだけ有効に活かされているのかを、KPIによって開示する必要があるのです。
このKPIは次の2つのポイントに集約されます。
一つ目は、
社員一人ひとりが活き活きと輝きながら成長し続けているのか?
もう一つは、
会社がその社員の育成にどれだけ注力できているのか?
という2つのポイントです。
このKPIが、より高い状態になり、結果として会社が競争力のある付加価値サービス提供し続けるように、共創アカデミーとして、引き続き貢献していきたいと考えています。